2007年05月24日

新しいタイプの「原因と結果」(2)

ニューヨークに関する話を取り上げたいと思います。

1992年の時点で、ニューヨーク市では2154件の殺人事件が起こり、626,812件の重罪事件が起きていたそうです。
しかし、ある時から急激に犯罪発生率に変化が起きました。
5年間で殺人件数は64.3%ダウンして770件。
重罪事件の総数は半分の35,5893件に・・・。

なぜか?

このときも、さまざまな理由が挙げられました。
が、しかしほんとの理由は違うところにあったようです。


■2つ目の事例

犯罪を劇的に減少させた方法が生まれたきっかけをつくったのは「割れた窓理論」と呼ばれる理論でした。犯罪学者が主張した理論です。

簡単にいうと、街の中で窓が一つ割れて放置されると、無法状態の雰囲気が現れ、それが隣の通りにまで広がり始めるというのです。つまり「ここでは何をやってもいい」という環境的な信号が出始めるということです。


この理論に基づいて、地下鉄を徹底的に掃除し、清潔さを保つという対策がとられました。

一台でも落書きされたらその車両は外すという徹底ぶり。
子供が三日かけて一生懸命に車庫の車両に落書きしたら、あえて三日目にきれいさっぱりにするという冷徹ぶり。

「割れた窓」が生み出す空気を徹底的に消し去ったということです。


■3つめの事例

これもニューヨークの事例ですが、2つめの事例と同じぐらいの時期に、無賃乗車を徹底的に取り締まったそうです。

私服の警官が配備され、無賃乗車した人に手錠をかけました。

面白いことに、次々と捕まえた人を手錠で数珠繋ぎのようにして立たせておいたそうです。

無賃乗車はそれまであまり力を入れていませんでした。というのも取り締まってもたいした問題では無く、重大な犯罪に力を注ぐべきだと考えられていたからです。しかしこの取り締まりは思わぬ副産物をもたらしました。無賃乗車する人の何人かに一人は、武器所持者だったり、指名手配犯だったからです。

無賃乗車をすると、もう踏んだり蹴ったりになるわけです。
これじゃ、やましい人はうっかり乗れませんし、些細な不正もしないように気をつけなくてはなりませんよね。

その後ジュリアー二市長が当選すると、地下鉄での試みをニューヨーク全域に適用しました。
・・・その結果が冒頭の数字に結びついた、というのです。


■4つ目の事例

あまり聞きなれない言葉ですが、ディドロ効果について書いてみます。

ディドロ効果
というのは、ある特定の物が環境に入り込むと、それがマッチするように次々に別のふさわしい物に置き換えられて、ついには全体が変わっていくことを指しています。

ディドロというのは百科事典を初めて作ったフランスの思想家です。
あるとき知人から贈り物として緋色のガウンをもらったのですが、部屋があまりに貧相に思えて、ガウン相応の家具が欲しくなり次々と買い替えを進めたというものです。ディドロ効果というのは、実は私たちも体験しているかもしれませんね。

中国でも似たような話があります。王様が高価な珍しい箸を手に入れたとき、臣下がそれをいさめたそうです。

「王様、その箸を使ってはいけません。」
「なぜだ?」
「そんな高価な箸を使うと必ず高価な器が欲しくなります。
高価な器を手に入れるとテーブルとか椅子もそれに合わせた物を求められるでしょう。
次は部屋の調度品のみならず、建築物にもそのレベルにあった物が欲しくなってくるでしょう。
やがてそれは庭や街に及んで、ついには国の財政を圧迫することになるでしょう。」

このいさめを王は受け入れたとか。


■5つめの事例
「女の平和」

これは古代ギリシャの劇作家アリストパネスによる紀元前の反戦喜劇です。
日本語新訳で出ています。

このお話は古代ギリシャのペロポネソス戦争が題材になっているのですが、戦争に反対するアテナイとスパルタの女たちがセックス・ストライキを起こして、戦争のことしか考えない男たちをこらしめる舞台劇です。
戦争やめるまではお預けよ!みたいなノリでしょうか・・・。

紀元前のお話ですが、アイディアは秀逸だと思います。
先のイラク戦争ではこの物語を朗読するという運動が起きました。
結果は皆さんご存じの通りですが、ネットが発達した現代では遠隔地との連携がとりやすいわけですから、本気で試す価値があるかもしれません。

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私がこの一連の考察で注目したいことは2点あります。

一つ目は「小さな意識に作用することで状況が変えられる」という点です。

まとめてみましょう。

トイレにハエをプリントすると、「おっ、小便で打ち落としてやれ!」
  というちょっとしたイタズラ心からトイレがきれいになる。

・地下鉄を常にきれいにすることで、  うかつに汚せないという小さな意識が芽生える。

・少額の切符を買わないで電車に乗ろうとして、手錠につながれて
  駅でさらし者になってしまうと、恥ずかしいという意識が植え込まれる。

・徹底的に駅で取り締まられると、犯罪者は「この町では下手に
  動けないな」と感じ始める。

・高価な箸の事例のように、次々に生まれてくる小さな欲望の連なりが
  全体を大きく変えてしまう。

・戦争に躍起になっている男達に、生理や本能レベルの意識に
  働きかけることで「戦争してる場合じゃねえ!」と気づかせる。

どれも小さな意識が全体へ波及する事例ばかりですね。


でも2点目に注目したいことも同じぐらい重要なことです。
すなわち・・・
「採用された方法は、状況そのものの次元に比べて階層がずれている」
ということです。

もう少しわかりやすく言うと、

トイレが汚いからきれいにしたい! → だから清掃費を上げる
・・・・というのはとても直接的な目的と方法です。

しかしハエを便器にプリントするという方法は、私たちの小さな意識に直接働きかけるのであって、トイレをきれいにすることとは階層が違います。


凶悪犯罪が多発しているから何とかしたい! → だから取り締まりの人員を増やし、特殊技術や強力な武器を導入する、というのも直接的です。

しかし、徹底的に地下鉄をきれいにしたり、無賃乗車を取り締まるのは、凶悪犯罪に対して直接的に作用していません。


戦争という国や生命を賭けたものに対して、セックスという次元で解決を図る、というのも全然階層が違います。


そう! どの事例も私たちの通常の感覚や常識では捉えられないような階層の切れ目があるのです。
ここに新しいタイプの機能主義を感じ取ることができます。

目的に対して方法の質が全く異なるわけです。

これは「風が吹けば桶屋が儲かる」とか「バタフライ効果」と呼ばれるような概念に通じるものがあります。
しかしもう少しズームアップして微かな意識の働きに注目すると、新たな因果関係が見えてきます。


最初のテーマに戻ります。

今回のテーマは「原因と結果」ですが、詰まるところ「本当の原因は何だったのか?」という問いかけでもあります。

戦争が起きるとプラカードをもってデモ行進したり、「戦争はんたーい!」と叫んでいる人たちを目にしますね。しかし、デモ行進で戦争が終わった事例を私は知りません。
ここでは戦争したい人達の意識が問題だという前提があるので、直接訴えかけるという行動に結びついています。・・・これはトイレが汚いから清掃費を上げる、という話に似ていませんか?でもそれはどうやらあまり有効な方法ではない、と考えられるわけです。

本当に戦争を食い止めたいなら別種の方法を考えなければなりません。よく観察し、知恵を絞って階層の切れ目を見つけられれば、それが可能になるはずです。



小さな意識に作用すること。
今までの方法とは全く異なる階層を見つけること。

その先に新しい結果が待っているはずです。


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posted by rio at 02:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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